【感想】漫画『灼熱カバディ』を読んで ~コート上では誰もが主人公だった~
エアコンをガンガン掛けたい季節になってきましたが、いかがお過ごしでしょうか。
前回、『灼熱カバディ』についてアニメの方の感想を書いたのですが、今回は原作を読んだ感想について書いていこうと思います。実はあの記事を書いた後、あまりに原作を読みたすぎてつい全巻まとめ買いしてしまいました。届くや否や、空いた時間にすぐ読み始めたのですが、普段は漫画を一気読みすることはあまりない自分が空いた時間を全て費やして一日ちょいで読破。ページをめくる手が止まらないとは、まさにこういうときに使う言葉なんだと思いました。
結論から言うと、アニメの時点でも期待度100%でしたが、
原作は500%ぐらいの面白さでした。神です。
『ハイキュー!!』、『スラムダンク』、『アイシールド21』といったスポーツ漫画のトップにも肩を並べるほどの名作です。
『灼熱カバディ』の何がそこまで言わしめるのか、作品を概観しながら一つずつ魅力を話していこうと思います。
- 魅力その1 読者を圧倒する灼熱のアクション描写
- 魅力その2 主人公たちの強くなる過程が面白い
- 魅力その3 誰もが主人公に思えるほど魅力的なキャラクターたち
- 魅力その4 個々のテーマの噛み合い方が半端ない
- さいごに ようこそ灼熱の世界へ
魅力その1 読者を圧倒する灼熱のアクション描写
ストーリーやキャラなど語りたいことはいろいろありますが、まずスポーツ漫画なら視覚で分かるアクション描写が重要です。やっぱり絵が漫画の顔ですから、そこがしょぼいと悲しいですよね。
その点、『灼熱カバディ』の絵は躍動感に満ち溢れていて真に迫るものがあります。
随所から画力の高さを感じるのですが、「肉体の描写」、「汗や涙などの液体描写」、「迫力や緩急を生み出す構図」、「線の太さや質感の使い分け」の四つがすごいポイントです。なかでも最後の「線の太さや質感の使い分け」はこの作品における最大の特徴で、荒々しいタッチで描かれたキャラクターには読んだ人間の魂を揺さぶる凄みがあります。それの極みは17巻の最終盤で「彼」が活躍する場面ですね。あれは伝説です。
私は絵に関して全くの素人なので、絵を描く人が見ればもっと詳細に『灼熱カバディ』の画力の凄さが分析できるのではないかと思います。何にせよ、『灼熱カバディ』の絵は作品の熱さがこれでもかと伝わってきて、本当に素晴らしいです。
魅力その2 主人公たちの強くなる過程が面白い
次に、宵越ら能京が成長して強くなっていく過程が面白いです。
これはバトル漫画にも通じるかもしれませんが、練習(修業)パートが面白い作品には名作が多いと思うんですよね。そこでダレるかダレないかの差は大きいです。私が始めに挙げた『スラムダンク』と『ハイキュー!!』は特に練習パートを活かせている例です*1。
地道な努力が実を結ぶ展開はとても熱いものですが、『灼熱カバディ』は練習で成長していく過程が丁寧に描かれています。その筆頭がやはり宵越で、彼が頭を使いながら手探りで活路を見出していく姿は、見ててワクワクします。アニメで奏和戦を見終わった段階だと宵越の強みが足技だと勘違いしていたので、合宿編で見せた方向性には「そう来たかぁー!」と思わず膝を打ちました。この作品では才能にかまけて努力を怠るタイプのキャラはいませんが*2、そのなかでも宵越は特に努力家な印象がありますね。もちろん、宵越だけでなく畦道たちもそれぞれ時には悩みながらも地道に努力を積んでいっています。それぞれが試合で努力の成果を発揮するところはどこも熱く、主人公が他のキャラにスイッチしたような感じさえあります*3。
また、『灼熱カバディ』でキャラが成長を見せた瞬間のカタルシスはトップレベルの爽快さです。これは、キャラが報われるまで長いからなんではないかと思います。宵越はカバディを始めてから目覚ましい成長をしてきた反面、初めて勝つまでに何度も負けを経験していました。試合という意味では能京自体がそうですね。散々苦渋を味わわされてきた分、初勝利に歓喜する能京メンバーにはどこのチームにも負けない輝きが迸っていたように思います。
魅力その3 誰もが主人公に思えるほど魅力的なキャラクターたち
三つ目は記事の副題にもしましたが、物語という観点で『灼熱カバディ』の真髄といえるのが数々の魅力的なキャラクターたちでしょう。
まず宵越に関しては、主人公だけあって見せ場が多いので、もはや説明不要でしょう。能京の主力選手(王城・井浦・水澄・伊達・畦道)に関しても、スポットが当たる機会が多いため成長していく過程が丁寧に描かれており、準主人公的な立ち位置だと言えます*4。また、伴・人見・関の三人はまだ活躍の機会が少ないものの、成長していく姿には目を見張るものがあります。特に伴と関はチームを救う活躍をし、二人とも瞬間的に主人公になっていました。能京は熱いプレーで番狂わせを見せてくれる、思わず応援したくなるような王道的なチームだと思います。
しかし、この作品の主人公は彼らだけではありません。
物語に関わってくるキャラやチームの多くには、それぞれが主人公の物語を思い描けるほど厚いバックボーンが備わっています。スポーツ漫画によくあるように試合中にたびたび回想が入るのですが、回想でキャラやチームの過去を知っていく内に何故か相手を応援してしまっている瞬間があるんですよね。
私がそれを顕著に感じたのが、関東大会の奏和戦。正直、17巻の前半は完全に奏和を応援していたほどでした。まあ、奏和の片桐が三本の指に入る好きなキャラなので*5贔屓目もあるとは思いますが、色眼鏡なしでも奏和に肩入れしたくなる雰囲気が整っていたと思います。
もちろんライバル格だった奏和だけでなく、王座を追い求める強豪英峰、新進気鋭の埼玉紅葉、一回戦で戦った伯麗IS、二回戦で戦った大山律心、どのチームにも大なり小なり彼らの物語があり、「敵だけど負けてほしくない」という思いが込み上げてきます。個人的に印象深かったのは、大山律心ですね。大山律心は、大和という不気味な男が主将を務めるチームなんですが、「終盤に垣間見えた不気味な男の人間らしさ」と「大和とチームメイトの奇妙な絆*6」が琴線に少し触れました。
またカバディ選手だけでなく、脇役もいいキャラばかりなんです。能京高校野球部のエースで、体育祭の騎馬戦で宵越と火花を散らした安堂もその一人です。初登場こそガラの悪さが目立っていましたが、騎馬戦で宵越と対話するなかでアスリート然とした彼の信念が見えてきます。騎馬戦のあとにも、求められた形ではありますが悩む宵越に助言をくれるなど強者の風格があります。他には高谷の応援している女の子たちが応援団を結成した意外な経緯も明かされるなど、キャラを大切にしている感じが伝わってくる作品です。
魅力その4 個々のテーマの噛み合い方が半端ない
これは前章の内容と関連が深い話になりますが、『灼熱カバディ』はキャラが持つテーマと物語の噛み合い方が恐ろしく完成されているんですよ。
例えば、それが顕著に表れたのは合宿編。ここでは多くのキャラが成長していきましたが、関と人見が成長するキッカケを作ったエピソードも秀逸な出来でした。関は英峰の神畑に、人見は英峰の若菜に大きな影響を受けますが、ここの噛み合い方はすごかった。私は特に自分を甘やかしていた関が、命を削るような神畑のストイックさに感銘を受けて心を入れ替える展開がめちゃくちゃ好きです。
もちろん、ここだけでなく他にも関係性による相乗効果で爆発的な魅力や面白さを生み出している場面はたくさんあります。ここで一つ、ピックアップしたいのは伯麗戦の外園です。世界組だったものの不破という上位互換の選手がいたために日の目を見なかった彼は、勝敗を分ける場面で関と伴に決定打を受けて攻撃に失敗してしまいます。ここのモノローグを読めば分かると思いますが、外園というキャラに関と伴をぶつけてきたのは完璧といわざるを得ません。
テーマの扱い方が巧みであるというのが、この作品の面白さの秘訣かもしれません。
さいごに ようこそ灼熱の世界へ
ここまで作品の魅力について伝えてきましたが、『灼熱カバディ』は間違いなくスポーツ漫画史にその名を刻む名作中の名作になると思います。タイトルに灼熱と冠している通り、どこよりも熱いスポーツ漫画です。あまりに続きが気になりすぎてアプリで連載を追うようになりました。毎週火曜日がマジで待ちきれないです。
あとアニメなんですが、尺の都合で展開が大きく改変されてしまったのは残念でした。漫画のあとがきでも先生や制作陣が展開をどうするかで悩まれていたので、アニメとしてまとめるためには仕方ないとはいえ寂しいなあとは思いました。それでも、どうやって話を着地させるのか気になるので最後まで見る予定です。
今回は作品全体を見ていきましたが、時間を作れれば、特定のキャラや高校にクローズアップした感想記事も書いてみたいです。ここまでお読みいただきありがとうございました。