雑食オタクの雑記帳

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【ブレンド・S 感想】可愛いだけじゃないアイドル志望の男の娘【神崎ひでり】

今回は『ブレンド・S』のアイドル属性担当ひでりん、もとい神崎ひでりについて語っていきたい。

ブレンド・Sを読んでいる諸兄ならご存じのように、ひでりは男の娘という強烈な個性を持っているキャラだ。マニアックな層には深く突き刺さるであろう属性だが、本作において男の娘であるひでりの立ち位置は作品の面白さに大きく寄与していると私は考えている。どんな作品においても、男の娘はときに他のヒロインを凌駕しかねない人気が出たりもするぐらいインパクトのある存在だが、ブレンド・Sにおいてひでりが存在する意味は比類ないほど重要なものだ。彼自身の魅力についても触れながら、ひでりが如何に重要な存在なのかを話していこうと思う。

 

 

ティーレの人間関係

ひでりについて語る前に、軽くブレンド・Sの概要とキャラクターを軽くおさらいしておきたい。

ブレンド・SはドSやらツンデレやら妹やらとギャルゲーのごとく色んな属性の女の子(演技)を詰め込んだ喫茶店が舞台というのもあり、女の子だけでも結構濃ゆい面子が揃っている。

礼儀正しいけど目つきが悪いせいで誤解されやすいドS属性担当の苺香ちゃん、ゲーマーで元気っ子だけどお店ではツンデレ属性担当の夏帆ちゃん、小学生くらいの見た目をしているが中身はクールな女子大生で妹属性担当の麻冬さん、物腰柔らかでおっとりした雰囲気だが人気同人作家の顔を持つ姉属性担当美雨さん(作品はほとんど成人向け)、そして可愛い見た目をしているが素の性格は口が悪く生意気なアイドル属性担当ひでり。

この五人のウエイトレスの他に、紳士的だが重度のオタクでヘタレな店長ディーノと比較的しっかり者だが百合になると熱くなるツンデレ担当よりツンデレな秋月くんのキッチン担当二人を合わせて七人のスタッフが在籍している。また、五巻から七巻収録範囲に掛けて麻冬さんの友人で真面目だが冗談の通じないバンドマン彩人さんが臨時スタッフとして加入している。

さて、ここで一つ詳細な人間関係にクローズアップする前に、今後の説明のため八人のメインキャラを簡単にいくつかの基準でグループ分けしてみようと思う。

基準はざっくりと年齢・性別・エロへの耐性の三つで分けていく。順に行こう。

 

①年齢

高校生以下:苺香・夏帆・(ひでり)

大学生以上:店長・秋月・麻冬・(美雨・彩人)

②性別

女性:苺香・夏帆・麻冬・(美雨・彩人)

男性:店長・秋月・(ひでり)

③エロへの耐性

低:苺香・夏帆

中:麻冬・(彩人)*1

高:店長・秋月・(美雨・ひでり)

 

 項目③エロへの耐性に関しては明確な基準がないので主観が入ってしまっているが、概ねこんな辺りだと思う。

 

さて、ここから時系列を辿りながら作中の人間関係について掘り下げていこう。

初期メンバーの苺香ちゃん・夏帆ちゃん・麻冬さん・店長・秋月くんだが、カップリング的には店長×苺香ちゃん(以下店苺)・秋月くん×夏帆ちゃん(以下秋夏帆)が軸になってラブコメ要素は進んでいくことになる。

 初期メンバーだけで話が進む一巻はラブコメ的にはまだまだ様子見で、主人公の苺香ちゃんを中心に据えたスティーレの日常が描かれる。

この時点で店苺に対する他のキャラの役割は、

 

夏帆ちゃん→人並みに他人の恋愛に興味を示すマイルドな賑やかし

秋月くん・麻冬さん→店長の奇行に厳しいツッコミポジション

 

といった感じだろうか。五人それぞれ個性は強く掛け合いも光るものがあるものの、ラブコメとしてはいまいちパンチの弱さを感じる。また初期の五人は誰も下ネタをぶっこんだりしないので、ちょっぴりエッチな場面はあれど比較的健全な雰囲気が漂っている。

そこに投下された爆弾が美雨さんと本記事の主題であるひでりである。

二巻から加入の美雨さんは創作のネタ探しが動機なこともあって、積極的に周囲(主に店苺)の恋愛事情に関わっていく。それに加えて大人組で積極的に下ネタをぶちこんでくる立ち位置というのも初期の五人にもない特徴で、メタ的に見れば本筋となる恋愛の進行に大きく寄与するキャラだ。

そして三巻より加入のひでりは、新たな風を吹かせた美雨さん以上にこの作品に革命を起こした存在だ。スティーレでは将来の夢もあってアイドル担当ではあるが、実際は男の娘という属性のウエイトが圧倒的だと思う。そして、この「男の娘」というのが肝である。メインの客層が男性なため、コンセプト的にもホールに男性スタッフが入ることは原則ない。なので必然的にキッチン担当とホール担当で性別が分かれることになる。現実的な観点ではキッチンに男性スタッフを雇う可能性もあるが、きららというジャンルを考慮するとラブコメといえど新たな男性キャラの投入は通常考えにくい*2

しかし、ひでりは性格はともかく容姿は女の子と遜色ない可愛さでアイドル志望としてのプロ意識でファンサービスも厚いため、例外的にホールに入れる男キャラになっているのだ*3。着替えのとき以外は自然に女の子側に混じれる特別な存在である一方、王道的な男の娘と違って性格は生意気なクソガキでアイドル的な可愛げはなく、年相応な少年寄りの味付けになっている。これはすなわち、ひでりは疑似的なヒロインの立ち位置に留まらず、三人目の男キャラという役割をしっかり果たすことができるということを意味する。「見た目が女の子でも性別が男なら女性扱いできない」という店長とは悪態を吐き合う仲で、秋月くんとはヘタレだったり奇行に走る店長を一緒に詰ることも多く、先輩と後輩のような関係を築いている。どちらも男同士でなければ生まれなかった関係性で、ひでりの加入は店長と秋月くんの新たな一面を引き出したと言ってもいいだろう。これだけでもブレンド・Sにおいて、ひでりの男の娘という要素は存分に活かされており、作品に幅をもたらした。また、ひでりも美雨さんほどではないが他人の恋愛に関わっていく方で、下ネタも回していけるので女子高生二人には聞かせられない話題(大抵は美雨さんが発端)にも普通に参加できるなど、本当にマルチな役割をこなせるキャラだ。

これが神崎ひでりがこの作品において重要である最大の理由となる。

 

ひでりのキャラクター性

可愛いアイドル志望とは裏腹に少年的な内面

ここからはひでりのキャラクターについてクローズアップしていこう。

「僕…可愛いアイドルになるのが夢なんです。この可愛さはそのために神様が与えてくれたものだと思うんですよ」

「自分で言ったぞこいつ」

「でも両親がわかってくれなくて…だからまずここでファンを作って僕がどれだけ才能があるか見せつけたいんです。じゃなきゃ農家を継がなきゃいけなくなるんですぅぅぅ。虫に囲まれるのは嫌だぁ! 豚が…萌え豚がいいーーーー! ちやほやされたいのーー!!」

出典:ブレンドS・三巻p16 

 秋月くんに志望動機を聞かれたときの答えがこれである。簡潔に言えば、ひでりは可愛い自分が好きなナルシストで口の悪い男の娘だ。自分の可愛さには余念がなく、店の制服を自分好みに(無許可で)アレンジしたり、ファッションに対する造詣の深さを見せるところも散見され、可愛さへのこだわりがよく伝わってくる。また、アイドル属性を謳うだけあり、アイドル的なファンサービスに溢れた接客からも自分の可愛さへの自信が伺える。

そんなひでりだが、中身は前述したようにアイドルみたいな可愛げはなく、生意気な少年といった感じの性格をしている。その辺りがよく表れるのが店長や秋月くんとのやりとりで、自分の可愛さを一ミリたりとも認めない店長に対しては特に口が悪くなる。雪の日に男二人の顔面目掛けて雪玉を投げつけたり、店長をヘタレクソウンコと罵倒したり、髪を切りすぎた秋月くんに「ぶはははははっ、だっせぇーー! 中坊じゃん!!」と爆笑してこめかみをグリグリされたり、後述するひでりの過去が関係するエピソードではある相手に対して照れ隠しに幼稚な悪口を吐いたり、クソガキという言葉がよく似合う生意気さを見せる。また秋月くんのことは時折パイセンと呼ぶことがあり、秋月くんの方も男のひでりには遠慮がないので、何だかんだいい関係性を築けているように思える。ちなみに私は秋夏帆のエピソードより、成り行きで秋月くんに無理やり食わされたパフェがあまりに美味くて泣いているひでりがすごく好きだ。

あとはひでりがたまに見せる逞しさも男の娘とのギャップになっている。たとえば初登場回で躊躇なくゴキブリを手で捕まえて逃がしたり、七巻の少年キャラとして接客する話では男性客が開けられなかった瓶の蓋をゴリラみたいな顔をして開けたりするところなんかは好例だろう。おそらく実家の農作業を手伝わされていた影響だが、流行りの男の娘とは一線を画すひでりの個性になっていると思う。

 

意外に息が合うひでりと美雨さん

次に美雨さんとの関係性から、ひでりについて掘り下げていく。

ブコメなどで複数のカップリングを匂わせる、あるいは二次創作でカップリング萌えが盛んな作品では余りもの同士をくっつけたと揶揄されるカップリングも存在する。二次創作に関しては極論を言えば個人の好みによってマイナーな組み合わせも存在する*4ため、二次創作を軸に論じるのは不毛なので無視する。話を戻すと、この作品におけるラブコメの軸は初期から存在する店苺と秋夏帆という見方がおそらく一般的だと思う。店苺は言わずもがな、次いで秋夏帆のエピソードもたくさんあり、最新の七巻はまさに秋夏帆ファン歓喜の内容だった。問題は残りの三人*5だが、麻冬さんはまだまだお友達という関係であるもののイトウくんという相手がおり、追加キャラのひでりと美雨さんの二人が残る。これを複数のカップルが生まれる作品で言われがちな総カプ*6という視点から見た場合、ひで美雨を余りものと捉える人もいるだろう。私もアニメが放映されていた頃にそのような感想を見かけた覚えがある。

で、実際はどうなのかと言えば、私はひで美雨をなるべくしてなったカップリングだと考えている。その最大の理由は、美雨さんが最も活き活きしているのがひでりをいじっているとき、言い換えれば美雨さんの魅力を最も引き出せる相手がひでりだからだ。美雨さんは「ネタにできるようなおかしな事が大好き」と自分で言うように、自身の好奇心を満たすために能動的に動くタイプで、スティーレで悪ノリが一番激しいキャラだろう。そんな美雨さんが遠慮せずに遊べる相手がひでりだ。理由はいろいろあると思うが、「反応が面白くていじり甲斐がある」「おだてやすく、褒めるとチョロい」「下ネタを振っても平気*7」などが主に考えられるだろうか。また、美雨さんと関わりの多い新キャラ隼人くん*8に関して麻冬さんに聞かれた際「(遊ぶには)あの子はピュアすぎて気が引ける」とコメントしているのを考慮すると、ほどよく心の汚れたひでりは格好の玩具なのかもしれない。

ひで美雨のエピソードといえば、三巻の外出先で偶然会って一緒に買い物する話や六巻の日帰り京都旅行に行く話が代表的だが、それ以外にもいろんなところで絡みが見られる。細かいところだと、ひでり&美雨さんが苺香ちゃんのデート服の相談に乗る話での童貞のくだりが私は面白くて気に入っている。

ここまではひでりの魅力をコメディの観点から語ってきたが、もちろん彼にも人間的な魅力が存在している。次はそれについて語らせていただきたい。

 

根は優しくて夢に真剣な男の子

もしかするとナルシストで口が悪くお調子者な面に目が行きがちかもしれないが、ひでりは思っているより性悪ではない。理由はアレだが寝違えて首を回せない苺香ちゃんを治そうとしてあげたり、ひで美雨においても重い荷物を代わりに持ったり、旅行先で疲れた美雨さんを介抱したりと何気ない優しさを見せている。

そして、特にひでりの魅力を象徴するエピソードが二つある。

一つ目は四巻の、ひでりが生主時代に他人の放送の荒らしが許せなくてレスバしてしまった過去が明かされるエピソードだ。回想で敵情視察といってニヤニヤしながらライバルの放送を巡回していたひでりが、誹謗中傷のコメントに目の色を変えるところはとても印象的だった。荒らしのコメントもよく見るとかなり酷いことが書かれており、それがレスバに走ってしまった理由の一つでもあるのだろう。

好きな事頑張ってる人を貶すのは許せなくて…

でも反応して人の放送でバトルする時点で僕も荒らしです

嵐なんて黙ってNGかスルーすべきなんです(ひでり)

出典:ブレンドS・四巻p48 

 当時のことをひでりはこう語っており、自分だけでなく他人であっても夢に向かって頑張る人には敬意を持っていることが伝わってくる。まあ、お礼を言いにきた当時の生主に照れ隠しが高じて「だいだい生放送見てても気づくわけねーですよ! こいつあの時すっげーブスだったもん」と暴言を吐いてしまうのだが*9。ちなみにこの件で美雨さんからの評価も大きく上がっている。

そして、二つ目が七巻の、美雨さんが商業連載を編集者から持ち掛けられた話だ。ひでりは美雨さんの予想に反して、美雨さんの商業デビューを応援する姿勢を見せ、前述した夢に向かって頑張る人への敬意という部分がここでも表れていた。しかし、煮え切らない態度の美雨さんに対して、ひでりは次のような台詞を突きつける。

「前言撤回です、今の状態でデビューしたとしても応援できないです!」

「え?」

「自身の都合も確かに大事ですけど、一番大切なのは美雨さんの好きなものを描いて読んでもらい楽しんでもらいたいという気持ちだと僕は思います。それが二の次になってる間は一切応援できないです!」

「ま…マジレス…」

「聞いた話、アマチュアの今でも一応人気あるみたいですし? 少なからずファンはついていますでしょうし、そういう人たちをガッカリさせない、更に露出増やして知ってもらい楽しんでもらう。そういう気持ちでデビューしてもらわないと応援できないです!」

「ひでりちゃん…」 

出典:ブレンドS・七巻p85

 アイドル志望というのは伊達ではないと感じさせる芯の強さがこの台詞には宿っていた。夢には人一倍真剣なひでりの言葉だからこそ刺さるものがあるはずだ。この話のひでりは作中屈指の男前っぷりだと思う。普段とのギャップでカッコいいところが一際輝いていた。

それとこの話を通して思ったのは、ひでりと美雨さんはアイドルと作家で形は違えど同じ表現者という共通点があり、それもひで美雨の相性の良さの一つなのかなと感じた。

 

まとめ

ひでりの魅力について余すことなく語らせてもらった。私としてもひでりについてここまで発信したことがなかったので、たくさん語れて楽しかった。これを読んだ人に男の娘という枠組みを超えたひでりの良さが伝われば最高だ。六巻は店苺、七巻は秋夏帆と来ているので、八巻の表紙はひで美雨になったりしないかなあと妄想しながら筆を置く。

*1:下ネタに狼狽えたりしないけどおそらく話もしない層

*2:メインキャラの兄弟が登場することはある

*3:店長だけは猛反対していたが

*4:ブレンド・Sを例にするなら秋月くん×苺香ちゃん・店長×麻冬さんみたいな想像しづらいカップリングも二次創作なら存在しうるという感じになる

*5:彩人さんは臨時スタッフなので除く

*6:すべてのキャラを誰かしらとカップリングにすること

*7:成人向け同人誌はさすがに見せられないが

*8:彩人さんの弟

*9:裏を返せばあの頃からすごく可愛くなっているということかもしれない