雑食オタクの雑記帳

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【ぼっち・ざ・ろっく 感想】青髪ベーシストは本当にクズなのか【山田リョウ】

2月25日、ついに『ぼっち・ざ・ろっく』の三巻が発売した。

今月号のきららMAXでアニメ化も発表され、私もぼざろが次世代のきららを担う作品になるだろうと常々思っていたが、その願望もいよいよ現実味を帯びてきたように思う。アニメ化に際して気になることは山ほどあるので、続報が待ち遠しいばかりだ。

さて、今回は私がぼざろで一番好きな『山田リョウ』について語らせてもらう。このブログを開設した当初から山田に関する話はずっと語りたかったのだが、如何せん山田を語る上で三巻の内容は外せなかったので記事にできずにいた。単行本未収録の範囲の話も別にできなくはないが、せっかくなら三巻が出たタイミングがベストだろうと思い、ここまで温めていた次第である。三巻の全体的な感想は気が向いたら書くかもしれない。

 

※この記事は『ぼっち・ざ・ろっく』1~3巻の既読者向けの記事です

 

 

山田リョウの基本情報

まずは山田がどういう人物であるのか、おさらいしていこう。

記事のタイトルにもあるように、山田は結束バンドのベーシストだ。そして、虹夏ちゃんの幼馴染である。本誌に記載されてる柱のキャラ紹介ではこのようになっている。

クールで孤高なベーシスト。高校三年生。虹夏の親友。

趣味が浮世離れしており、さらに変わり者と言われると喜ぶ。

出典:まんがタイムきららMAX 

 ここではクールで孤高という表現が用いられているが、雰囲気こそクールな感じが出ているものの普段はあまりクールではなく、一ファンの目線ではむしろ愉快な変人という印象が大きい。*1ぼざろにおける一番のギャグ要員は言わずもがな主人公であるぼっちちゃんだが、山田は廣井と二番手を争うほどのギャグ要員だと私は思っている。

一巻の時点でも変人の片鱗は見せていたが、山田がその変人っぷりもといポンコツっぷりの真価を発揮するのは二巻のテスト勉強回からであろう。山田が実はバカであることが発覚し、勉強に没頭しすぎると今度は音楽のことを忘れたり、睡眠学習を信じて寝ながら洋楽を聞いたり、挙句の果てに勉強に熱中しすぎたせいでバンドをやめて東大を目指そうとしたり、狙ったボケとガチの境界線は測りかねるが、とりあえずヤベーやつという印象を文句なしにファンへ植えつけたことだろう。私も山田に一段と深くハマったのは、おそらくこの回がキッカケだった。それ以後、山田の奇行は目立つようになっていく。ちなみにSICK HACKのライブを見に行く回の、山田がドヤ顔で最後列に佇んでいる場面といままでになく流暢にサイケの魅力を語りだす場面が私のお気に入りである。

それと山田に関する評判でよく出てくるのが「クズ」というワードだ。結論から言うと、山田はファンの間で言われているほどクズではないと思う。*2ただ、金にがめつい銭ゲバな気質が見受けられたり、店長の誕生日プレゼントを忘れたり借りた金をなかなか返さないなど物事にルーズだったり、単純に口が悪かったりと、クズに数えられる要素が散見されるのもまた事実である。とはいえ、「バンドマンはクズ」というテンプレと山田リョウを結びつけるのはやはり難しいように感じた。

ここまでが山田に関する基本的な情報だ。山田のキャラクター性は「変人」という一言に尽きるが、しかしその一言に詰め込むにはあまりにも濃い性格をしている。正直これだけでも山田は読者を惹きつけるに十分な魅力を備えている。ぼっちちゃんほどではないが、ギャグパートでは美味しいところを持っていくことが多く、ぼざろの武器であるアクセル全開のギャグに大きく寄与している存在なのは読者なら分かるはずだ。

だが、ここまではいわば今回の記事における前座だ。山田リョウという少女の本質的な魅力に、キャラクターとしての核心にまだ触れていない。本題はここからである。

 

山田リョウ:オリジン

山田リョウ伊地知虹夏

山田を語るにあたって、どうしても外すことのできないキャラがいる。それは結束バンドのドラム担当でありリーダーでもある虹夏ちゃんである。二人は幼馴染であり結束バンドの初期メンバーだ。*3山田と虹夏ちゃんは付き合いが長いのもあり気の置けない仲のようで、山田の側では虹夏ちゃんにはまったく遠慮がなかったり、虹夏ちゃんの側では山田に厳しくなりきれずつい世話を焼いてしまうなど、他の二人と比べると距離感の近さを感じる場面が多い。また、スタンダードなボケとツッコミ同士で漫才コンビな要素もありつつ、ときどき二人揃ってノリのよさを見せることもあり、仲の良さがよく伝わってくる。

しかし、ただ仲がいいだけでは敢えてここで取り上げることはなかったであろう。山田にとって虹夏ちゃんは自らの音楽人生の岐路に立っていた人物、端的に言えば自分の人生を変えた人物であった。その二人の関係性について本格的に掘り下げられたのが三巻であり、それがこの記事の執筆を待っていた最大の理由でもある。しかし、幼馴染である以上に山田にとって虹夏ちゃんが大切な存在であることを覗く場面が実は一巻に存在している。

私 昔は別のバンドにいたんだけど

そのバンドの青くさいけど まっすぐな歌詞が好きだったんだ

でも売れる為に必死になって どんどん歌詞を売れ線にして

それが嫌になったから やめたんだ 

バンドそのものが嫌になっていたところを虹夏が誘ってくれて

「暇ならベースやって!」

もう一度頑張ろうって いまバンドをしてるんだ

出典:ぼっち・ざ・ろっく・一巻p75

 これはぼっちちゃんが作詞をする回で山田がぼっちちゃんに自分の過去を語るシーンだ。ここで虹夏ちゃんがいなければ山田はそもそもバンド活動をやめていた可能性が高い*4ということが明確に分かる。山田が虹夏ちゃんの誘いを受けたこと自体、精神的な変化と切り離して語るのは困難だが、ともかく虹夏ちゃんは山田に直接的な影響を与えている。

 物語が始まる前に山田は人生の岐路を既に経験し、虹夏ちゃんに人生を変えられているのだが、物語のなかで再び山田は人生の岐路に立たされることになる。

 

ベーシスト:山田リョウの本質

さて、山田というキャラの本質が何であるかを語る準備は整った。ここからは読者の山田に対する認識を変えたであろう、山田がスランプに陥る回について話そう。

この話のあらすじを簡単に説明すると、バンドへの責任感でスランプに陥り作曲が上手くいかなくなった山田が結束バンドの仲間に助けられて立ち直るという内容だ。ちなみにこの回で病院を経営する山田の両親が初登場し、過去にバイオリンを習っていたことが判明するなど、実は裕福な家柄のお嬢様という側面も少し掘り下げられた。

この話の鍵となる要素はずばり『音楽へのスタンス』だ。山田のスランプを晴らした四人のセッションのあと、山田は虹夏ちゃんに本心を打ち明けた。

…皆このフェスにかけてるから 結果がダメだったら

皆バンドをやめるんじゃないかって不安になった (山田)

出典:ぼっち・ざ・ろっく・三巻p48

 山田を悩ませていたのは先に書いたように、バンドへの責任感だった。現在、四人がフェスを目指しているのは自分たちの本気を証明するためであり、言い換えれば単なる青春の一ページから実力主義の世界に踏み入れたことになる。そして、ここでいう実力を証明するとは、すなわち世間から認められることに他ならない。

……既に気づいた人もいることだろう。このとき、山田はあの苦い過去に似た人生の岐路に立たされていた。その本音を聞く限り、山田は少なからずバンドに嫌気が差した過去のことを意識していたように思える。このご時世、売れなければ音楽を続けるのは難しいというのは事実で、軽々しく商業主義という言葉で批判していいものではないと思うが、だからといって売れるために自分の個性を捨てるのはアーティストの本分としてどうなのかとも思う。そのバランスは音楽に限らず創作で生計を立てたい、世間から認められたいと望む人間なら誰もがぶつかる壁だろう。それが原因で仲間とすれ違った過去を持つ山田がこういった不安を抱くのは至って自然なことだ。

そして、山田が抱えていた不安を吹き飛ばしたのは、過去に自分を救ってくれた虹夏ちゃんの言葉だった。弱気な言葉を吐いた山田にジャーマンスープレックスかましたあとに放ったのが以下の台詞になる。

 確かにフェスは今の私達にとっては大事だけど

だからって結果が悪いくらいで解散するわけないじゃん!

このメンバーで音楽やってると楽しいからバンド組んでるんでしょ!

これからはちゃんと皆を頼るんだよ バンドなんだから(虹夏)

出典:ぼっち・ざ・ろっく・三巻p48

 ここに虹夏ちゃんの、ひいては結束バンドの根源がある。高みを目指していても決して「皆で音楽をすることが楽しい」という初心は忘れない、そんな精神が垣間見える。実は一巻の回想で山田を結束バンドに誘ったとき、虹夏ちゃんもその前にバンドを解散している。*5虹夏ちゃんがどのように前のバンドで解散に至ったのかは描かれていないが、絶望してバンド活動から退こうとした山田と挫けずに新しいバンドを組もうとした虹夏ちゃんは、私の目には対照的に映る。上記の台詞が自然に出てくる虹夏ちゃんの純粋さに山田は希望を託したのかもしれない、そんな風に思った。

山田リョウの本質とは音楽やバンドにだけは真摯で献身的であることだと考える。ここまで読んでくれた方には山田がどのように音楽と向き合っているのかが伝わっているだろう。違うバンドにいた過去のことや責任感を感じてスランプに陥ってしまったときのことから、山田が音楽に対して人一倍真摯に向き合っているのが分かる。もちろん四人それぞれがバンドに真剣に向き合っているのは言うまでもないが、山田は過去の経験から他の三人とはまた違った視点を持っていると思う。普段のテキトーでふざけた姿と音楽には真面目なギャップが彼女の真の魅力と言えるかもしれない。

虹「でもリョウがそこまで結束バンドの事思ってたなんてね、素直じゃないじゃん。いっつもどうでもよさそうにしてるのに」 

 

リ「そうだよ、知らなかったの?」

 

リ「それじゃさっきのセッション形にしたいからもう帰ってくれる?(ケロッ」

虹「てめ~~~…」

出典:ぼっち・ざ・ろっく・三巻p49

 余談だが、先ほど引用した虹夏ちゃんの台詞のあとにこのやりとりが続くのだが、山田が色付きで強調した台詞と一緒に作中で初めて満面の笑みを見せたとき、私は感動でしばらくそのページを開いたまま硬直してしまった。そのコマの隣に虹夏ちゃんの笑顔が並んでいるのも素晴らしく、私はこの回がぼざろを通して一番好きだ。最後にいつものふざけた感じに戻るのも山田らしかった。

 

青髪ベーシストは本当にクズなのか

最後に改めてこのタイトルに対する私の回答をここに示したい。

 

山田は真のクズではない。

 

やはりこれが私の結論であり、おそらく変わることはない。実際、山田のクズ要素はだらしない点と口が悪い点くらいだ。少なくとも暴力を振るタイプのクズではない。私がこの記事を書こうと思ったのは、単純に好きなキャラである山田について語りたいだけでなく、今後ぼざろが広まっていくなかで単なるクズキャラとしてネタにされる可能性も否めないので、先んじて異を唱えるという意図も含んでいた。確かにギャグだけでも美味しい存在ではあるが、せっかくぼざろを見るのなら深くその魅力を伝えたい。もしこれを読んだときに「そんなこと言われなくても知ってるわ」と思うならそれで構わないし、「そういう見方があるんだ」と思ってくれたなら嬉しい限りだ。

そして、記事を終わる前にこのシーンだけ紹介させてほしい。

虹「ゔっ、みんなごめん…」 

喜「いっ伊地知先輩どうしたんですか⁉」

ぼ「あっ、お腹でも痛いんですか…」

虹「わっ私がちゃんと確認せずに出演を承諾しちゃって皆を散々のせちゃったから…みんな気持ちが萎えちゃったかなって…」どすっ「ぶほっ」

 

リ「何? 思ったようなライブじゃなかったから責任感じてんの? そのくらいで萎える私達なわけないじゃん。ここにいる客を全員ファンにするライブ、してやりゃいいんでしょ」

出典:ぼっち・ざ・ろっく・三巻pp99‐100

 これは三巻の終盤で変な箱のブッキングを受けてしまった責任を感じて泣き出す虹夏ちゃんを山田が励ますシーン*6で、今度は自分の番だとばかりに虹夏ちゃんを力強く励ます山田が本当にカッコよくて大好きだ。この記事を読んだ方に、山田がこんなに魅力的なキャラなんだと伝わったら、それほど嬉しいことはない。彼女が今後どんな活躍をしてくれるのか非常に楽しみだ。

*1:余談だが初期の山田はおっとりした不思議系で現在とは雰囲気が大きく異なる

*2:そもそも山田がクズという風潮が一種のネタかもしれないが

*3:厳密に言えば物語開始時点で逃げ出した喜多ちゃんも初期メンバーに入るはずだったのかもしれない

*4:一人で再起する可能性を完全には否定できないので断定はしないでおく

*5:二巻p22にあるお互いに違うバンドをしていたという記述に基づいている

*6:ちなみに引用中の擬音は山田が落ち込む虹夏ちゃんの頭に手刀をかました音である